● 1929年のイギリス映画。監督はかのアルフレッド・ヒッチコック。イギリス映画のトーキー第1作になるらしい。
冒頭は,サイレント・タッチで警察の仕事を丹念にリサーチしていく。
● 事件が片づいて。刑事のフランク(ジョン・ロングデン)は恋人(婚約者か)のアリス(アニー・オンドラ)とデートに出かける。
が,30分も待たされたアリスは最初からオカンムリ。デートの途中で諍いを起こしてしまう。
その諍いの原因のもうひとつは,プレーボーイの画家の男(シリル・リチャード)のアリスへのモーションだ。阿呆なアリスは,彼とデートをし,あろうことか彼の部屋に上がりこんでしまう。
案の定,アリスは襲われそうになり,必死の抵抗の末,彼を殺してしまう。
● その事件を担当したのがフランク。現場にアリスの手袋の片方が残っていたのを発見して,上司にばれないようにそっとポケットにしまう。
ところが,事件の真相を知ったトレイシーと名乗る男(ドナルド・カルスロップ)がアリスとフランクをゆすりに来る。ここがよくわからないところ。
トレイシーもアリスの手袋の片方を持っているんだけれども,どうしてそれを手に入れることができたのか。そこが腑に落ちない。
● トレイシーは,しかし,警察が目をつけていた前科者だった。フランクは彼に罪をなすりつけようとする。トレイシーは逃走し,大英博物館に逃げこむ。
ここでの捕りものシーンは見応え充分。が,トレイシーはドームの上に追いつめられて,あっさりと墜落死してしまう。
● アリスはトレイシーに罪をかぶせることを潔しとせず,自ら警察に出頭し,自首しようとする。が,担当警部にいろいろと取りこみがあったようで,フランクが対応することになった。
フランクは全部わかっているわけだから,アリスの話を聞く必要はない。で,二人で警察署の出口に来る。そこで終わる。
が,その直前に画家の部屋にあった絵(アリスが破いた箇所がある)が警察署に運びこまれるシーンが挿入されており,アリスが逮捕されることを暗示するようでもある。
また,冒頭のサイレントシーン(取り調べ)に繋がるようでもある。
このあとどうなるかは,視聴者の想像に委ねているのか。
● ヒッチコックの映画は,展開が点線になっているというか,一義的にこうだと視聴者に押しつけないというか(でもかなり匂わせてはいる),要するに大人の映画だという印象。
イギリス的成熟の一側面を体現している,といってもいいんですかね。
● シリル・リチャードのプレイボーイぶり,画家を殺してしまった後のアニー・オンドラの鬼気迫る演技,そしてドナルド・カルスロップの“ゆすり”の妙。
この映画はそういうところを味わうものだと思った。