2025年6月14日土曜日

2025.06.13 喜劇 急行列車

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● 劇場公開は1967年6月。上映時間は90分。
 1967年といえば,映画館の数は今よりずっと多かった。書店や文具店の減少が指摘されるが,映画館も同じで,当時は街の映画館がけっこうあった。今は絶対数は減ったが,大型化されたシネコンに変わった。
 どちらがいいかといえば,今の方がずっといい。便所の臭いが漂って来なくなっただけでも,快適度が増したというものだ。

● 当時は,少なくとも田舎では,映画は庶民の娯楽とは言えなかった。休みのたびに映画館に映画を観に行くなんて大人はいなかったと思う。子供も夏休みとか冬休みに,つまり年に一度か二度しか行かない特別な場所だった。
 では,田舎の映画館に入り浸っていたのは誰だったのか。田舎ではまだ少数派のエリートだったサラリーマン諸氏だったろうか。今と違って,勤め人にはインテリの響きもあったのだ。

● 主役の渥美清が演じるのは寝台特急の専務車掌。前半の舞台は,東京発長崎行きの寝台特急「さくら」。後半は日豊本線で西鹿児島まで行く「富士」。
 ブルートレインという言葉ができてからのことになるが,どちらにも一度だけ乗ったことがある。すでにこの映画に描かれているような窮屈さは改善されていたが,それでも寝台特急とはこういうものだったなと懐かしくなった。

● ちなみに,三段寝台も知っている。上野から高崎線,信越本線,北陸本線を辿って福井に行く寝台急行だった。
 今,ああいうものに乗れるか。ま,乗れなくはないと思うが,乗りたいとは思わない。

● 寝台特急を惜しむ声が今でもあると思うのだが,仮に復活させたとして,惜しむ人たちが乗ってくれるかといえば,そういうことにはならない。乗りゃしない。
 運賃が飛行機の方が安くなった。LCCではなくレガシーキャリアであっても,相当運賃を割り引いている。先日,長崎に行ったのだけど,羽田から長崎までJALで片道8,700円だった。寝台特急の “乗車券+特急券+寝台券” がこの値段で収まるはずがない。かつては憧れだった飛行機が,今は庶民の足になっている。
 寝台特急は消えるべくして消えたのだ。消える理由があって消えたのだから,復活するはずがない。懐かしむのは勝手だけれど。

● 出演は渥美清の他に,佐久間良子,西村晃,小沢昭一,左卜全,楠トシエ,大原麗子,関敬六,三遊亭歌奴など。こちらは,文句なしに懐かしい。
 佐久間良子というと良妻賢母的な役柄しか知らなかったが,やっぱあれですよ,ハッとするほどきれいな女優さんですな。

● 印象に残ったシーンは,渥美清が夏みかんのタネをペッペッと吐きだすところ。上手いもんだなぁと思った。
 もうひとつ。佐久間良子が渥美清を誘う小悪魔的な演技。この演技はすべての女優さんが上手にやってのけると思うけど。

● 要するに,面白かった。自分の映画とはこういうものというイメージは,このような映画によって作られているのかもしれないと思った。
 この時期にリアルタイムで映画を観ていたわけではないのだけれども。