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「30年もの間,ほとんど自宅を外出する事なく庭の生命を描き続け,97歳で死去するまで生涯現役だった画家の熊谷守一を主人公に,晩年のある1日をフィクションで描いた作品」。つまり,実在した画家がモデル。文化勲章を辞退するシーンがあるが,それもモデルをなぞっている。
● 熊谷守一氏は富裕な家庭で育ったらしい。社会性のある(社交上手という意味ではなく)変人というか,実のある脱俗というか,神がかったマイペースぶりというか,そうしたものは圧倒的な経済的ゆとりがあって初めて生まれて来れるものなのだろう。
長じては贅沢とは程遠い生活を選びとったようなのだが(父親への反発もあったのだろう),それも長じる以前に富裕を経験していればこそという気がする。
もうひとつ,周囲に支える人がいないとなかなか脱俗は成立しないものだ。とりわけ夫人ということになるのだが,秀子夫人もまた,富裕を身体に染み込ませた清貧の人だったのではないかと想像する。
● セットにはあまりお金をかけていない。というか,お金をかける必要もない。俳優の演技だけで1本の映画にしている。
ストーリー上は自宅の隣接地にマンションが建設され,庭に日が差さなくなって,モリの小宇宙だった庭が小宇宙であり続けることができなくなることが唯一の山場なのだが,モリ夫婦は従容として流れに任せる。そのあたりを絵にするのに苦労があったかと思う。
● 熊谷氏の旧宅跡地(豊島区千早)には熊谷守一美術館(豊島区立)が建っている。館長は次女の熊谷榧さんが務めている。