2022年2月12日土曜日

2022.02.11 第13回鹿沼市民文化センター名作映画祭

鹿沼市民文化センター 大ホール

日光線車内
● 3〜5時に寝て,正午近くに起きる生活。ぼくに午前中はない。が,今朝は死ぬ思いで7時半に起きた。宇都宮からJR日光線で鹿沼に向かっている。
 10日から11日にかけて大雪というから,どうなることかと思ってたんだが,大したことはなかった。道路はほぼ無雪。が,日陰はアイスバーン状態のところもあり。午前中は車を使っての不要不急の外出は避けた方がいいかも。コロナよりちょっとだけ怖い。

● なぜ鹿沼に来たのかといえば,鹿沼市民文化センターで映画4本立てを見るため。“鹿沼市民文化センター名作映画祭” というやつ。2010年度の第2回,2012年度の第4回,2013年度の第5回は見ている。
 以後,パタッと見なくなった。今回は第13回なので連続7回見過ごしている(去年はコロナで開催を中止したのかもしれないけど)。前売りチケットを買っていながら,当日気乗りがしなくて行かなかったこともある。

● そうなったについては,特に理由があるわけでもない。が,強いていうと,ひとつには,類似の催しが宇都宮市立図書館でも行われているのを知ったことだ。
 そのため,年1回の鹿沼での催しに出向くのが億劫になったということはあると思う。宇都宮に比べると,鹿沼は遠いわけで。
 ではなぜ今回は行ったのか。よくわからんのですわ。チケットは宇都宮市文化会館で買ったんだけど,この映画祭のチラシを見たら,スッとカウンターに行って買ってたんですよ。

● といっても,鹿沼市の独自の事業ではなくて,国立映画アーカイブ(独立行政法人国立美術館が運営する国立映画機関)が主催する “優秀映画鑑賞推進事業” という,名前を知ったら鑑賞するのを遠慮したくなるような事業に,鹿沼市が乗っているということ。
 栃木県では1箇所で1回(1日)の開催。ちなみに,秋田県では6箇所で開催。愛知県と鹿児島県では開催なし。
 国立映画アーカイブは東京の京橋にある。旧日活本社ビルを改装工事して使用しているらしい。京橋まで行けば色々見れるんでしょう。京橋まで行けば。

● 映画じたいは,いずれも Amazonプライムで見ることができるのかと思うんだけど,違うのは大画面と音響だ。画面はノートパソコンの14インチで我慢するとしても,音響はパソコンではどうにもならない。
 どうにかなるように設備を追加して大音声を流すと,隣近所に迷惑という以前に,家族から苦情の嵐が飛んでくるだろう。防音室を作る必要がある。つまり,自宅ではいかんともしがたい。
 ので,Amazonプライムや Netflix でたいていの映画は見ることができるとしても,映画館で見ることをやめない方がいいだろうし,こうした催事を捉えることを億劫がらない方がいいと思った。音響がこれだけ違うと,同じ画面を見ていても,視聴体験としては別のものになるだろうから。

● お客さんは年寄りばっか。中年はいるが,若者はいない。年寄しかいない所に若者は来ないよね。
 優秀映画だろうとなんだろうと,昔の映画に対する需要は細る一方だ。ここにいる年寄りたちは10年後にはだいぶ減っている。ひょっとしたら,ぼくもいないかもしれない。
 それを補うだけの新規参入は,絶対と言っていい,ない。総人口が減る一方なんだから仕方がない。
 大ホールなので席は余裕で選べる。自分でラッキーナンバーだと思っている17にちなんで,17列の17番に座った。

● 開映は10時。4本目が終わるのは20時。途中で眠くなることもなく,全部ちゃんと見れた。

● 1本目は「キツツキと雨」(2012年)。監督は沖田修一。
 第24回東京国際映画祭で審査員特別賞,第8回ドバイ国際映画祭で最優秀脚本賞・最優秀編集賞・最優秀男優賞(役所広司)を受賞。

● 「職人気質の木こりの男(役所広司)と,ゾンビ映画の撮影でやって来た気弱な新人映画監督(小栗旬)の青年との交流を描く」とあるのだが,この監督は職業としてではなく,映画の好きな若者がお金をかき集めてきて,趣味で映画を撮っているのだろうと思ってた。
 何せ,現場を放棄して東京に帰っちゃおうとするんだからね。職業監督でこれやったら,次はないどころじゃないでしょ。レッドカード以上でしょ。

● その気の弱い若者が,人のいい森の男と妙に噛み合う。何でなんだろと思うんだけども,不自然さはなく,自然な展開。
 森の男にすれば,自分の息子のように思えたのかもしれない。若者からすれば,自信のなかった自作脚本を初めて認めてくれた男にかすかな光をもらったと思ったのかもしれない。
 出演者はほかに,高良健吾,臼田あさ美,古舘寛治など。

● 2本目は「Shall we ダンス?」(1996年)。監督は周防正行。
 日本アカデミー賞で最優秀作品賞はじめ各賞独占。

● 四半世紀前になるんですねぇ。この映画は話題にもなったし,社交ダンスを始める人が増えたという話だったし,映画館で見ることはなかったのだが,テレビの地上波放送か何かで一度は見たと思っていた。
 のだが,今日,見てもワンシーンすら思いだすことはなかったから,見たというのは記憶が捏造したものかもしれない。

● 登場する俳優がそれぞれ持ち味を発揮している。竹中直人と渡辺えり子が双璧で,徳井優と田口浩正がコミカル担当。2人とも上手い。柄本明もいい持ち味で。彼が演じる三輪の魅力でもあるかもしれない。原日出子も存在感を示し,草村礼子もはまり役。
 しかし,主演の役所広司と草刈民代がコケちゃうと話にならないわけだ。役所広司は安心して見ていられる俳優だ。となると,草刈民代の健闘が大きいってことになりますか。

● 劇中で,ヨーロッパでは音楽とダンスは教養のひとつになっている,という台詞があった。貴族の時代以来の伝統かね。フォーマルな社交にダンスはつきものってことなんですかね。
 もうひとつ。ダンスは女性の方が男性よりも3倍早く上達する,という意味の台詞もあった。社交ダンスに限らず,舞踊とはそういうもので,女性がやった方が切れが出るらしい。
 となれば,どうしたってダンスは女性の世界になりがちだ。だからこそ,付け入る空きがあると考えるのが男性的思考というものでしょうな。

● 見て良かったなぁと思える映画。これ,パソコンの画面じゃなくて,ホールの大画面で見られて良かった。
 主題歌は大貫妙子「シャル・ウィ・ダンス?」。

● 3本目は「死に花」(2004年)。監督は犬童一心。原作は太田蘭三の同名小説。
 今日見た4作の中で最も面白く,高揚したのがこれ。爺たちがハチャメチャやる話なので,感情移入しやすかったってのもある。山﨑努がかっこ良すぎ。歳をとってもカッコ良くいられるんだっていうね。
 もちろん,フィクションだからこそだし,若いときから鍛えに鍛えてきた肉体の持ち主が演じるからこそではあるのだけれども,それでも爺には救いになるわけですよ。同年代にこういう人がいるんだ,って。

● 年寄り5人がトンネルを掘って,銀行からお宝を頂いちゃおうという話なんだから,これはもう面白いわけですよ。
 何せ,金持ちたちだから穴を掘るための機材は揃っちゃうんだな。しかも,まんまと成功しちゃう。あり得ない展開で成功する。ほんと,痛快。こういうハチャメチャは大歓迎だ。
 爺たちの真剣な遊び。爺でもこういう形で人に貢献(?)できるのかもなぁ。貢献というか,笑ってもらえる。笑ってもらえれば,それだけで爺としちゃ充分だからさ。

● 出演は山﨑努,宇津井健,青島幸男,谷啓,長門勇,藤岡琢也。マドンナに松原智恵子。爺にもマドンナはいた方がいいのだ。
 さらに色を添えるのが,このとき23歳だった星野真里。若い女性が入ると,そりゃぁ面白くなる。
 ほかに,喋らなくても存在感抜群の森繁久彌。加藤治子。ワンシーンしかないんだけど,妖しい美貌で強い印象を残した戸田菜穂。

● 舞台は東京の介護ケア付き有料老人ホーム。登場人物たちはそこの入所者。したがって,人生で(少なくとも経済的には)成功を収めた人たちのはずだ。
 でも,死ぬときはそんなにぼくらと変わらないね。っていうか,変わりようがないっちゃないわけだよね。最後のひと息を吸うときはね。

● ぼくなら,こういう施設よりホテルに住みたい。集団活動など1ミリだってさせられたくないもんな。
 今どきのホテルはバリアフリーは問題ないし,食事は都市部のホテルなら街中で好きなものを選べるのだし,何より年寄りと付き合わなくてすむわけだから。
 ホテルの方が安くあがる。帝国ホテルが1ヶ月宿泊で36万円というプランを出した。これはコロナ禍の特殊事情によるものだが,そこまでの低料金ではないとしても,ホテルの方が圧倒的にコスパがいいのじゃないか。
 運営する側が,ホテルはプロなのに対して,有料老人ホームはしょせん素人。ま,ホテルだと最後の最期をどうするかの問題が残るわけだけど。

● 撮影の現場は北千住ではないか。綾瀬川が隅田川に合流するところではなかろうか。
 「青島幸男,藤岡琢也,森繁久彌は,この映画が遺作となった」。青島幸男なんか,都知事を辞めた後にこういう映画を残して死んだんだから,羨ましいっちゃ羨ましい。唯一,何で都知事なんかになったかねぇ,とは思う。そういう時代だったかね。

● 4本目は「がんばっていきまっしょい」(1998年)。監督は磯村一路。原作は敷村良子の同名小説。
 この映画は「小規模公開ながら,地道な宣伝で評判を呼び,異例のロングラン上映を記録した」らしい。

● 舞台は1970年代の「伊予東高校」女子ボート部。「伊予東高校」のモデルは松山東高校。
 劇中の高校生たちが実在すれば,現在は還暦を過ぎているわけね。人生は夢幻の如くなり。

● 主演は田中麗奈。このとき18歳か。この映画が彼女のデビュー作。
 他に,清水真実,葵若菜,真野きりな,久積絵夢,松尾政寿,中嶋朋子,本田大輔,森山良子,白竜など。すでに俳優を辞めた人もいる。

● 女子ボート部を作るところから始まり,ドベから這いあがって県大会で準優勝。残念ながら,全国大会には行けなかったけれど。
 この子たち,このあと,どんな人生を歩んだんだろうなぁ。特に,田中麗奈演じる篠村悦子は腰を傷めたうえに,貧血を頻発している。ちょっと心配になるよね。と思うくらいに,映画に入り込めた。

● 今日はいい映画を4つも見たなぁ。満ち足りた気分で鹿沼市民文化センターを後にしましたよ。