2021年8月29日日曜日

2021.08.29 俺たちの交響楽

Amazonプライムビデオ プラス松竹

● 『俺たちの交響楽』(1979年)。武田鉄矢の映画初主演作。
 武田鉄矢って昔から老け顔のイメージがあるのだが,さすがにこの頃は若かった。相手役が友里千賀子。懐かしい。

● 舞台は川崎。武田鉄矢は工場の労働者。登場人物のほとんどは地方から出てきた人ということになっている。
 当時の川崎は現在の川崎とはだいぶ違うのは確かだろう。駅西はまるで違った光景だったはずだ。ミューザもラゾーナもない。
 が,そうはいっても,当時であってもこのような空気が川崎にあったかどうか。1979年の川崎はこうだったと思ってはいけないだろう,たぶん。

● 劇中の登場人物たちは皆,一途で一生懸命で,「仲間」と「連帯」が好き。その頃に好まれた性格類型だ。
 当時の大学の寮とか労働組合とかには,そうしたものを良しとする,薄っぺらな,同時にどことなく権威主義も纏っている,迷惑なリーダーがいたものだ。
 ので,展開が平板になるのは仕方がない。形を替えたスポ根物語だから。

● 合唱もそうだし,吹奏楽もそうなのだが,音楽は政治的な主義主張と相性がいい。ナチスを持ちだすまでもない。
 日本では戦後,共産党系の日本青年共産同盟が主導する「うたごえ運動」が全国を席巻した。首都圏でそれを担ったのが「中央合唱団」だが,現在に至るもその流れが通奏低音のように続いている印象を受けることがある。

● 本作も川崎労音合唱団「エゴラド」がモデルになっているらしい。工場の労働者がベートーヴェンの第九を歌うというのが,いかにも労音好みの設定だ。
 労音とは勤労者音楽協議会の略称で,もともとは「日本労働組合総評議会,日本教職員組合といった日本社会党の影響力の強い団体が中心の国民文化会議の構成団体であった」が,日本共産党が入り込んでくるなど,左内部での勢力闘争があったらしい。
 今の目線で見れば,くだらない時代であったとなるわけだが,たいていのものは時代に要請されて生まれるものだろうから,戦後はそういう要請が長く続いたのだと諦めるほかはない。人間とは愚かなものだということも。そういう時代があったから,とにもかくにも今があるのだろうし。

● 左翼の学生団体がいくつもあるように,音楽運動にもいくつもの団体があるが,今でも合唱の指導者の中には,政治思想はリベラルな人が多いのではないか。
 リベラルは,たいていの場合,情弱の代名詞でもある。細部を詰めないで(細部を考える人をバカにもする)一足飛びに理想に到れると考える夢追い人でもある。誰でも気がつく現状の不備にしか目が行かず,上手く回っている部分を捉えることができない。眼の解像度がおそろしく粗い人でもある。
 人は正しいものを信じるのではなく,自分が信じたいものを信じるものだ。バカにはバカの道がある。その道を行かせるべし。その道しか行けないのだから。説得や議論は無益な徒労というべし。

● バカにはバカの道を行かせよ。昔からそう達観していた人は多かったろうが,それがいよいよ明らかになったのはTwitterなどのSNSが普及してからだろう。
 「Twitterはバカ発見器」といった人がいたが,とりあえず全員をバカと推定したうえで,そうじゃない人を見つけようとするのが現実的ではないか。

● 世間はバカで満ちていると前提するのがいい。自分はどうなんだという話になるが,この際は自分のことは棚にあげておけ。
 バカで満ちている世間に対する心得の第一は,雑談はいくらしてもいいが議論はやめよ,ということだ。議論は何も生まない。バカほど議論を好むから,議論好きとは距離を置いた方がよい。

● 「原案」が山田洋次。が,原案って何だろ?
 そのよしみなのだろう,渥美清や倍賞千恵子など,「男はつらいよ」のメンバーが賛助出演している。