DVD(デジタルリマスター修復版)
戦争が終わって3年後に上映された。戦後,いち早く復活したのが浅草の映画館だったと聞いたことがある。
人々は満足に喰えない状態でも娯楽を渇望するものだというのが半分,映画人も何もしないで遊んでいるわけにはいかなかったというのが半分,だろうか。
● 「終戦直後の日本の女たちにふりかかった悲劇に小津安二郎が真正面から挑んだ異色問題作」で,どういうストーリーかというと,「戦争が終わり,困窮した生活の中で夫の復員を待ちわびている妻が,子供の病気の治療費のために一度だけ売春をしてしまった。まもなくして夫が帰還。しかし妻は良心の呵責に苦しみ,ついに真相を夫に告白してしまう」というもの。
田中絹代演じる時子は,“ついに” というよりは至極あっさりと話してしまうのだが,これは話しちゃいかんだろうというね。この議論(?)は劇中でもなされるのだが,どう考えたって話しちゃダメでしょ。
● 秘密を持つのがイヤだっていうのは,荷物を持つのがイヤだというのと同じだもんね。あまりに幼稚でしょうよ。
男女間で完全なるディスクロージャーを実施してますなんて,あり得ない。隠すつもりがなくて隠していることなんてたくさんあるわけで,そうだからこそ関係は維持される。
墓場まで持っていく秘密はあって当然。それをできるのが大人だと言ってもいい。
● で,それを聞いた修一(佐野周二)の対応も,どうしよもないクズ男君なのだ。女々しい。「めめしい」は男々しいと書くのがいいかもしれないね。
貞操に対する考え方というのは,今とはだいぶ違うのだろうけどねぇ。女性に対する縛りがキツかったと思うのだけれども,それにしてもねぇ。
● 根本には負担の不平等が横たわっている。女の負担が多すぎる。で,楽な方の男が優位に立つというのだから,何ともしょうがない。
最後には,修一が時子に夫婦のあり方について訓示を垂れるんだが,馬鹿野郎,出来損ないの坊主が釈迦に説法するな,と思うしかないよね,これは。
● もうひとつ。時子は尽くしちゃうタイプなんだよね。自分を殺して相手を立てる,徹底的にそうする。これは火に油を注いじゃうよね。損なタイプだねぇ。
最後はハッピーエンドと言っていいんだろう。とりあえず,形を作ってくれてありがたかった。
● 出演者は,田中絹代と佐野周二の他に,村田知英子,笠智衆,水上令子など。