DVD(デジタルリマスター修復版)
● 「東京暮色」(1957年)。「小津にとっては最後の白黒作品であり,昭和の大女優,山田五十鈴が出演した唯一の小津作品でもある」。「ジェームズ・ディーンの代表作であるハリウッド映画『エデンの東』(1955年)の小津的な翻案とされる」。「次女明子役に当初岸恵子を想定していたが,『雪国』の撮影が延びてスケジュールが合わなくなったため,有馬稲子がキャスティングされた」。
以上,ウィキペディア教授の解説。
● 長女の孝子に原節子。次女の明子が上記のとおり有馬稲子。姉妹の父親(周吉)が笠智衆。姉妹の母親で,夫の海外赴任中に部下と恋仲になって出奔したという設定の喜久子に山田五十鈴。
他に,高橋貞二,杉村春子,山村聡,藤原釜足,中村伸郎など。
● ウィキペディア教授は「本作は戦後の小津作品の中でも際立って暗い作品である」とも言うが,たしかにずっしりと重い。
明子は独り相撲に堕ちて出口が見えず,孝子は夫とうまく行かずに(どうも夫のDVではないかと思われる)実家に戻っている。周吉は銀行員で出世もしているが,娘たちがこんな状態のうえに,妻に裏切られた過去を持つ。喜久子は過去の呵責を背負って,上を見上げることができない。
● 唯一わからないシーンは,明子が死んだことを,孝子が母親に告げるところだ。「お母さんのせいよ」とひと言だけ言って帰ってくる。
明子はおそらく飛込み自殺を図ったのだと思うのだが,最終的なトリガーとなったのは堕胎した子の父親である恋人の不実にあるので,母親はまったく関係ない。むしろ,明子が母親の言うことに聞く耳を持たなかったせいでもある。
ということを観客(視聴者)は知っているのだが,孝子はそれを知らない。しかし,そうであっても「お母さんのせいよ」は心臓を刺しかねない言葉の暴力といえる。
● 孝子は夫のところに帰る決心をして,実際に帰っていく。収まるべきところに収まったという扱いになっているのだが,今なら止めるべきだということになるかもしれない。
孝子は子供のために両親が揃っていた方がいいというのだけれども,それも状況によることは現代人にとっては常識になっている。この時代は,耐え難きを耐えてでも鞘に収めるのが良しとされていたのだろう。
というか,そういう時代がつい最近まで続いていたような気分だが。
● 若いときの有馬稲子を見られる。登場している俳優たちの中では抜きんでて小顔。が,この時代は,女優であっても今ほどの小顔は少ないようだ。
こういうのって不思議だよねぇ。小顔が珍重されだすと実際に小顔が増えるとは,どういう法則に基づくものかね。