DVD(デジタルリマスター修復版)
● 「彼岸花」(1958年)。10年以上前に一度見ている。小津作品としては初のカラー映画。
女優陣が田中絹代,有馬稲子,桑野みゆき,久我美子,山本富士子,浪花千栄子と綺羅星のごとし。
● この映画で描かれているのは,結婚をめぐる親と娘の対立。娘の結婚を管理したがる親と,それを嫌がる娘。
3つの家族が登場するのだが,嫌がる娘は有馬稲子,久我美子,山本富士子の3人で,(今の言葉で言うと)過干渉の親が佐分利信,笠智衆,浪花千栄子。
母親の場合は折り合える余地があるのだが,父親の場合は娘としては実力行使に出ざるを得ない。父親との対話になど,和解の可能性を見いだすことはできない。
● 佐分利信が演じる父親の頑なさは,幼児的という言い方では足りないくらいに理由がない。娘の彼氏である正彦(佐田啓二)の交渉術の稚拙さが招いてしまった側面もある。交渉事で最短距離を行こうとしては失敗するに決っている。
それにしても,父親は自身のメンツにこだわって,こだわっている自分を制御できないでいる。自分が折れるしかないとわかっているのに,自分から折れるのはメンツが許さない。自縄自縛とはこういうことだ。
● それを田中絹代演じる母親がとりなしていく。このあたりが男女の役割分担になっているっぽい。男はトラブルを作るのが役割で,それを解決するのが女の役割。男がトラブルを作り,女がそれを解決していく。
ただ,その映画を作るに際して,脚本や映像は男が作っている。
● 父親はどこぞの会社の重役で,母親は専業主婦。東京のサラリーマン家庭なのだが,お手伝いさんを雇っている。ここで描かれている家庭は中流ではない。もっと上層に位置する。
当時は “サラリーマン=エリート=少数派” だったのだろう。今では多くの人たちがこのような暮らしをしていると思うが,それは高度経済成長が作ってくれたものだ。
そしてその高度経済成長は日本人の努力が産んだものではなく,当時の日本が置かれた客観条件による部分が大きい。日本は運が良かった。その恩恵をぼくらも受けている。
● 浪花千栄子の演技をこの映画で初めて見た。というか,この映画以外には見たことがない。
本名が南口キクノで,昭和の御代に大塚製薬のオロナイン軟膏のCMに出ていたのは,リアルタイムで見ているんだけど。