DVD(デジタルリマスター修復版)
「秋刀魚の味」とは言いながら,秋刀魚が小道具的に使われているわけではない。
● 小津ファミリーと呼びたくなるほどに小津作品の多くに出演している俳優たちが,親子になったり,職場の同僚になったり,夫婦になったりして,いろんな関係を演じている。
が,この映画には岩下志麻が出演している。彼女が出ている小津映画はこれだけ。
● その岩下志麻の美貌を見ることができるのが,この映画の肝のひとつ。後年,「極道の妻たち」で嗄れ声で啖呵を切るシーンのイメージが濃く残っているんだけれども,どっこい,とんでもなく正統派の美人だったわけですよ。
この映画も一度見ているのだけれども,彼女の美貌を憶えていたのがもう一度見てみようと思った理由です。
ちなみに,彼女の出生地は東京の銀座(当時の地名は東京府東京市京橋区)。
● 他の女優陣は岡田茉莉子,三宅邦子,岸田今日子,杉村春子,環三千世。男優は主役の笠智衆,佐田啓二,中村伸郎,北竜二,東野英治郎,加東大介。
娘を嫁がせた父親の虚脱を笠智衆が演じる。「晩春」ではリンゴを取り落とすシーンでそれを象徴したが,この映画ではもう少ししつこく,その虚脱を演出している。
● この映画を見ていると,男女が結婚して家庭を持つのは子どもを産んで育てるためなのだな,という当たり前のことに気付かされる。それを伝える成分を濃く含んでいるように思われる。
それゆえ,結婚したら第一義とすべきは子育てであって,自分のことは二の次三の次にしなければいけないと覚悟すべきなのかも。ぼくはその覚悟において欠けるところがあった。
● 岩下志麻の路子が兄の幸一を訪ねて,電車で帰るシーンがある。そのときの駅は東急池上線の石川台駅。
幸一はこのあたりの団地に住んでいるという設定だったろうか。今でいうと大田区。
● 幸一は中古のゴルフクラブを友だちから購入している。1962年にゴルフをやっていたのだから,当時の日本の平均よりはかなり上の暮らしをしている。
この頃はまだ二重構造という言葉が生きていた時期か。大企業と中小企業の格差,都市部と農村の格差がクッキリしていた時代。
● 小津映画はこれですべてではない。まだ見ていないのがたくさんある。Amazonプライムに「+松竹」をオプションで追加すればあらかた見ることができるんだろうか。
2週間までなら無料だ。この手を使って「釣りバカ日誌」は全部見ることができたんだけどね。
● 1カ月だけ「+松竹」を付けようか。300円ですんじゃう。
それで小津作品のほぼすべてを見ることができるのであれば,当然,そうする。そうやってまだ見ていない分を見ていくことになると思う。