2021年9月4日土曜日

2021.09.03 「エロ事師たち」より 人類学入門

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● 『「エロ事師たち」より 人類学入門』(1966年)。1966年は昭和41年。この時代,映画は都市型レジャーであったろう。
 といっても,この時代の娯楽といえばまず映画であって,ちょっとした街なら映画館は複数あるのが普通だったのではないか。個人に毛がはえた程度の零細経営だったろうが,数だけはけっこうあった。そろそろ淘汰が始まる頃でもあったろうか。

● しかし,田舎の民にとってはそんなにしばしば見られるものではなかった。少なくとも,わが家においては,映画館ははっきりハレの日の存在であって,しばしば行けるものではなかった。年に一度か二度がせいぜいだった。
 トイレ臭が客席にまで流れてくるような劣悪な環境であったけれども,当時,それを劣悪と感じることはなかった。経済成長はすでに始まっていたが,今とは比較にならないほど貧しかった。あの頃の生活を今やれば,間違いなく生活保護に該当するはずだが,皆が等しなみに貧しければ,貧困が不幸に直結することはない。
 しかし,あの頃に戻りたいかと言われれば,絶対に嫌ですと答える他はない。貧しさゆえの閉塞感や暗愚感というのは,はっきりとした形で捉えていたわけではないけれども,影のようなものとなって記憶に残っている。

● そういう時代の映画だ。カラーではない。野坂昭如の原作を今村昌平が映像化し,エロ事師を小沢昭一が演じた。坂本スミ子,ミヤコ蝶々,西村晃,菅井きん,殿山泰司らが脇を固めている。個性派というか,癖がある芸達者たちというか。近藤正臣はこれがデビュー作だったんだろうか。
 出番は一度しかないが,ミヤコ蝶々の存在感はやはり凄い。凄いはずだと思って見るから凄いと感じるのでもあるのだろうけど,ミヤコ蝶々と渥美清がもし対峙することがあったらどういうことになったろう,と脳内妄想に浸ることがある。

● が,この映画の良さはぼくには捉えることができなかった。老境に至ってもなお大人になり切れていないんだろうか。同じところをグルグル回っているようなじれったさを感じてしまって。主人公には停滞感があるんだよね。
 小沢昭一演じる主人公に向かって,もっと動いて場を変えなきゃしょうがないだろ,と言いたくなってしまう。エロもけっこうだけれども,自分と周りをどうにかしたいんだったら,それじゃダメだろ,と。
 もちろん,主人公が,はい,そうですか,と動いてしまったら,この映画は成立しなくなるわけだけど。