2021年11月17日水曜日

2021.11.16 この道

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● 「この道」(2019年)。北原白秋(大森南朋)と山田耕筰(EXILE AKIRA)の交流を描いたもの。「1918年に文学者の鈴木三重吉が児童雑誌「赤い鳥」を刊行して100周年になるのを記念して製作された映画」であるらしい。

● 北原白秋や山田耕筰がこの映画で描かれているような人物だったのかどうかはわからない。っていうか,おそらく違うと思う。
 それではまったくの単純バカということになってしまう。この映画の北原白秋や山田耕筰は,中学生で発達年齢が止まってしまった薄っぺらな人間だ。それとも,天才というのは単純バカなんだろうか。

● 北原白秋が死ぬ前に,山田耕筰が陸軍の軍服を着て見舞いに来る。で,軍歌しか作れなくなったのを嘆き,いずれまた2人で歌曲を作れる時期が来るというシーンがあるのだが,これも史実なのかどうか。
 つまり,軍部=悪 というのは戦後にできた見方であって(つまり,GHQの情報戦が功を奏した結果であって),戦時中に軍歌しか作れないことを嘆いた詩人や音楽家がいたとは少々考えづらい。
 むしろ,軍歌を作ることに前のめりになっていたのじゃないか。前のめりになってたとまで言うと言い過ぎかもしれないが,意に沿わないけれども軍部には逆らえないからしょうことなしにやっていた,というのは違うと思う。

● この戦争は負ける,自分は欧州にいて欧州を知っている,あんな国と戦争して日本が勝てるわけがない,と山田耕筰が言うシーンもあるのだが,これも同じ。
 そのシーンは,もちろん,映画製作側が挿入したもので,山田耕筰が本当にそう言ったのかどうかなど,知る人は1人もいない。戦後になってから,自分は負けると思っていたと言いだす人はあまた現れたわけだが,さて本当にそうだったのかとなると,どうなんだろうか。

● 複雑性において戦争よりはるかに低いと思われる今回のコロナ禍についても,いわゆる専門家は印象論で語ることしかできなかった。コロナの先行きを過たず予測できた専門家はいない。
 今はネットで発言するから,アーカイブが残ってしまう。必ず検証される。それを知ってか知らずか,自己顕示欲だけでテキトーなことを喋り散らした専門家は,現在は軒並み黙っている。が,コロナ収束後に,じつは自分はと言いだす連中でもあるだろう。
 まして,戦争の先行きを過たず予測できた人が文学者や音楽家の中にどれだけいるか。あれは無謀な戦争だったというのは,歴史が確定した後に,後世の人間が半ば上から目線で言うことだ。渦中にいると見えるものも見えなくなる。

● 特筆すべきは貫地谷しほり。白秋の3人めの妻の菊子を演じているのだが,唯一,リアリティのある登場人物になっていた。
 主題歌は当然,「この道」(作詩:北原白秋/作曲:山田耕筰)。EXILE ATSUSHI が歌っている。